大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和39年(う)1294号 判決 1964年8月05日

主文

本件控訴を棄却する。

当審における未決勾留日数中三〇日を原判決の本刑に算入する。

理由

<前略>

同第二点法令違反の主張について。

所論は、原判示第三事実について、被告人は原判示原○子に対する強姦行為に着手した後、同女の露出した肌が寒気のため鳥はだたつているのを見て欲情が減退したためその目的を遂げなかつたとの事実を認定し、これを障碍未遂としているが、右の場合、被告人は自己の意思によりその犯行を中止したものであつて中止未遂というべきである、という。さて、記録及び原判決引用の関係証拠によれば、被告人は昭和三九年一月二八日午後四時三〇分ごろ、小雪の降るなかを、下校途中の原○子(当時一六才)を認め、同女を強いて姦淫する目的で原判示松林の中に連れ込み、同女の下着を脱がせたうえ、その場に仰向けに倒し同女の陰部に手指を挿入する等して、やがて同女を姦淫しようとしたが、原判示の如く同女の露出した肌が寒気のため鳥肌たつているのを見て欲情が減退したため、その行為を止めるにいたつた事実が認められるのである。ところで、被告人が姦淫行為を中止するに至つた右の如き事情は、一般の経験上、この種の行為においては、行為者の意思決定に相当強度の支配力を及ぼすべき外部的事情が存したものというべく、そのため被告人は性欲が減退して姦淫行為に出ることを止めたというのであるから、この場合、犯行中止について、被告人の任意性を欠くものであつて、原判決が本件は外部的障碍により犯罪の遂行に至らなかつたものである、として中止未遂の主張を容れなかつたことはまことに相当である。論旨は独自の見解というべく採用できない。<中略>

よつて、刑訴法三九六条に則り本件控訴を棄却するが、刑法二一条により当審における未決勾留日数中三〇日を、原判決の本刑に算入することとし、主文のとおり判決する。(裁判長判事三宅富士郎 判事寺内冬樹 谷口正孝)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例